この記事でわかること
- 不貞慰謝料の枠組みを作った3つの最高裁判例と、その判決が今の慰謝料相場にどう影響しているか
- 判例1(昭和54年)→ 不倫相手にも責任が及ぶと確立した出発点
- 判例2(平成8年)→ 婚姻関係が既に破綻していたら不倫相手は責任を負わない
- 判例3(平成31年)→ 不倫相手への「離婚そのものに対する慰謝料」は原則認められないと判示(実務に大きな影響)
- 判例から逆算した「自分のケースで請求できる金額・相手」の整理
- すべての判決の出典・確認方法も明示
「不貞慰謝料の相場は100〜300万円」とよく言われますが、その根拠は最高裁の判例にあります。誰に・どんな場合に・いくら請求できるのか——その枠組みは、過去の最高裁判決の積み重ねで作られてきました。
とくに不倫相手(配偶者の浮気相手)にどこまで請求できるかは、近年の判例で大きく変わっています。「相手にも当然請求できる」と思っていたら、実は最高裁が請求を制限する判決を出しているケースもあるんです。
この記事では、不貞慰謝料の枠組みを決めた最高裁3判例を、事案・判旨・実務への影響の順で整理します。出典・確認方法も明示しているので、ご自身で原典にあたることもできます。最後に「自分のケースで何が言えるか」を判例から逆算する視点もまとめました。
不貞慰謝料の枠組みを作った3つの最高裁判例

まずは全体像から。次の3つの判決を押さえれば、不貞慰謝料の現在のルールが理解できます。
| 判決 | 判示の核 | 実務への影響 |
|---|---|---|
| 最判昭和54年3月30日 | 配偶者と肉体関係を持った第三者も、他方配偶者に対し不法行為責任を負う | 不倫相手に慰謝料を請求できる法的根拠を確立 |
| 最判平成8年3月26日 | 夫婦関係が既に破綻していた場合、不倫相手は原則責任を負わない | 「破綻していたか」が重要争点に |
| 最判平成31年2月19日 | 不倫相手への「離婚そのものに対する慰謝料」請求は、特段の事情がない限り認められない | 相手方への請求は「不貞行為自体への慰謝料」に絞られる方向に |
ポイント
判例1で「請求できる」が確立し、判例2で「破綻していたら無理」と制限がかかり、判例3で「相手方への離婚慰謝料は原則NG」と請求戦略そのものが変わりました。順番に押さえると、現在の請求の組み立て方が見えてきます。
判例1|最判昭和54年3月30日 — 不倫相手にも責任が及ぶ

事案の概要
夫と肉体関係を持った女性に対し、妻が損害賠償(慰謝料)を請求した事案です。「不倫相手に対しても慰謝料を請求できるのか」という、当時として根本的な問いに最高裁が判断を示しました。
判決の要点
最高裁は、配偶者の一方と肉体関係を持った第三者は、他方配偶者の夫婦間の平和な共同生活を侵害したものとして、不法行為責任(民法709条)を負うと判示しました。これにより、不倫相手に対しても慰謝料を請求できることが明確になりました。
実務への影響
この判決以降、不貞慰謝料は「配偶者」と「不倫相手」の両方に請求できるのが原則となりました。ただし慰謝料総額は二重取りにはならず、両者で分担する形になります(双方は不真正連帯債務の関係)。
判例2|最判平成8年3月26日 — 婚姻関係が破綻していたら責任なし

事案の概要
配偶者と肉体関係を持った第三者に対し、もう一方の配偶者が慰謝料を請求した事案で、不倫が始まった時点ですでに夫婦関係が破綻していたと認定されたケースです。
判決の要点
最高裁は、不貞行為の当時、すでに夫婦関係が破綻していた場合には、特段の事情がない限り、不倫相手は他方配偶者に対し不法行為責任を負わないと判示しました。守るべき「平和な共同生活」が事実上失われていたから、というのが理由です。
「破綻」とは何か
「破綻」が認められやすい典型は、たとえば次のようなケースです。
破綻が認められやすい例
- 不貞行為より相当前から長期の別居が続いていた
- 離婚に向けた具体的な手続き(調停申立など)が進んでいた
- 家庭内の関係修復が客観的に困難な状況だった
実務への影響
この判決以降、不倫相手側の反論として「不貞時点ですでに夫婦関係は破綻していた」と主張するパターンが定着しました。請求する側は「破綻していなかった」(同居・家計の共有・夫婦の交流が続いていた等)を示す必要があります。
判例3|最判平成31年2月19日 — 不倫相手への「離婚慰謝料」は原則NG

事案の概要
配偶者が不貞行為に至り、結果として離婚へと進んだケースで、もう一方の配偶者が不倫相手に対して「離婚そのものについての慰謝料」を請求した事案です。
判決の要点
最高裁は、夫婦の一方は、原則として、その配偶者と不貞行為に及んだ第三者に対し、離婚に伴う慰謝料を請求することはできないと判示しました。ただし、不倫相手が「離婚させることを意図して、夫婦関係に対する不当な干渉等の特段の事情がある場合」は例外として認める余地を残しています。
重要
この判決は、相手方に対する請求の中身を整理した点で大きな意味があります。不倫相手に請求できるのは「不貞行為そのものから生じた精神的苦痛への慰謝料」であり、「離婚に至った精神的苦痛への慰謝料」は原則として配偶者にのみ請求するのが筋、というのが現在の実務感覚です。
実務への影響
この判決以降、請求の組み立て方は次のように整理される傾向にあります。
| 請求する相手 | 請求の中身 |
|---|---|
| 配偶者 | 不貞行為への慰謝料 + 離婚そのものへの慰謝料(離婚に至った場合) |
| 不倫相手 | 不貞行為への慰謝料(離婚慰謝料は原則NG・特段の事情ある場合のみ例外) |
3判例から見える慰謝料相場の決まり方

3つの判例から逆算すると、慰謝料の金額や請求の可否を左右する要素は次のように整理できます。
| 要素 | 慰謝料への影響 |
|---|---|
| 不貞時点で婚姻関係は維持されていたか | 破綻していたら不倫相手への請求は原則不可(判例2) |
| 離婚に至ったか | 離婚に至ると慰謝料は増額傾向(配偶者へ離婚慰謝料を加算) |
| 不貞の期間・回数・悪質性 | 長期・反復・妊娠などは増額方向 |
| 婚姻期間・子の有無 | 長期婚姻・未成年の子がいると増額 |
| 証拠の強さ | 不貞行為を推認できる証拠の質で大きく変わる |
具体的な金額レンジや判例10ケースの目安は浮気慰謝料の判例10選で整理しています。計算方法の細部は不倫慰謝料の計算方法もあわせてご覧ください。
自分のケースで判例をどう使うか
判例を踏まえて、ご自身のケースを次の順で整理すると、請求の見通しが立てやすくなります。
| STEP | 確認すること |
|---|---|
| 1 | 不貞時点で夫婦関係は維持されていたか(同居・家計・交流の継続) |
| 2 | 離婚するか・関係を継続するか |
| 3 | 請求する相手(配偶者/不倫相手/両方) |
| 4 | 手元の証拠が「不貞行為(肉体関係)」を推認できるか |
とくにSTEP4の証拠は判例を問わず大前提です。証拠の集め方は不倫の証拠完全ガイドを、依頼を含めた全体像は浮気調査 完全ガイドで確認してください。
よくある質問(FAQ)
Q. 不倫相手にはもう慰謝料を請求できないということですか?
A. いいえ。請求できなくなったのは「離婚そのものに対する慰謝料」のみで、「不貞行為そのものから生じた精神的苦痛への慰謝料」は引き続き請求可能です(判例3)。
Q. 「夫婦関係は破綻していた」と言われたらどうすればいいですか?
A. 破綻していなかったことを示す客観的な事実(同居の継続、家計の共有、共同の予定や旅行、家族行事など)を主張・立証します。判例2の主戦場です。弁護士に相談しながら準備するのが現実的です。
Q. 判例の原文はどこで読めますか?
A. 裁判所HP「判例検索システム」で判決日・事件番号などから検索できます(記事末尾の参照元参照)。
Q. 民法のどの条文が根拠ですか?
A. 民法709条(不法行為による損害賠償)と710条(非財産的損害の賠償)が中心です。離婚に伴う慰謝料は民法709条・710条をベースに、離婚原因(民法770条)の有無等が関係します。
まとめ|判例を押さえれば、請求の地図が見える
不貞慰謝料は、最高裁の3判例で「誰に・どんな場合に・何の慰謝料を請求できるか」の地図が描かれています。情報があふれる中でも、原点である判例を押さえれば、自分のケースで何が言えるかが見えてきます。
もっとも、個別の事案で破綻の有無や金額をどう争うかは、弁護士の経験と証拠の組み立てが大きく影響します。判例の理解は出発点、最後は具体の事実と証拠——この前提で進めてください。
参照元・出典
本記事で引用した判例・法令
- 最判昭和54年3月30日(不貞行為と第三者の不法行為責任)
- 最判平成8年3月26日(婚姻関係の破綻と不倫相手の責任)
- 最判平成31年2月19日(不倫相手に対する離婚慰謝料の請求の可否)
- 民法709条(不法行為による損害賠償)/710条(非財産的損害)/770条(離婚原因)
原典・公的情報の確認先
- 裁判所「判例検索システム」(判決日・事件番号から原文検索が可能)
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search1 - e-Gov法令検索(民法等の条文)
https://elaws.e-gov.go.jp/
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※本記事について:本記事は最高裁判決に関する一般的な解説をまとめたものです。判決の射程や個別事案への当てはめは、事実関係により結論が大きく異なります。具体的な請求の可否・金額の見通しについては、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。法令・判例の取り扱いは更新される可能性があるため、最新情報は記載した公的情報源でご確認ください。
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